飛んで火に入る夏の虫
夏が近づくにつれ、夜の自動販売機やコンビニの窓にたくさんの虫が集まってきます。これは、虫の多くは光に寄ってくる習性を持っていることから、蛍光灯などの明るいものに飛んで集まるのです。
「飛んで火に入る夏の虫」の言葉はまだ蛍光灯などがない時代、明るさにつられて飛んで来た夏の虫が、火によって命を落としてしまう様が由来となりできたことわざです。
この言葉は、自らを破滅に追い込む様な行為や怖いもの知らずの行動に対して忠告や揶揄する時に用いられます。
このことわざを聞くとある話を思い出します。スカーレットという猫のお話です。
1996年3月30日、ニューヨーク州ブルックリンでの出来事。放置されたガレージから、原因不明の出火があり消防隊が駆け付けました。消火活動の最中、消防隊員の一人が燃え盛るガレージの中に入っていく猫を目撃しました。しばらくすると、その猫は全身にヤケドを追いながら出てきて、そしてまた燃え盛るガレージへ何度も、何度も入っていきます。
この猫は当時3ヶ月の5匹の子猫の母親でした。驚いたことに子猫たちを燃え盛るガレージから一匹ずつ運び出していたのです。この母猫の耳や肉球はやけただれ、顔の毛は燃えてほとんど無い状態。体中に重度のヤケドを負っていましたが、5匹全ての子猫を運び終え、鼻先で確認したあと、力尽きたように昏倒しました。
その後は、3ヶ月に渡る治療の末、ヤケドのあとは残るものの元気に回復しスカーレットと名前をもらい、2008年に静かに息を引き取ったそうです。
自ら燃え盛る炎に飛び込むスカーレットの姿は、まさに自らを破滅に追い込む行為です。ですが、スカーレットはわかっていても飛び込まずにはいられなかったのです。
南無阿弥陀仏とは、人を傷つけ、自らを傷つけ悩み苦しみながら生きるこの私を救わずにはいられないと、「必ず救う」と煩悩に燃え盛る私に飛び込んで下さった阿弥陀如来という仏様であります。
本願寺派布教使 工藤恭修