月々のことば(法話)

2024年12月

『私を見ていてくださる人があり 私を照らしてくださる人があるので 私はくじけずに こんにちをあるく』

出典:榎本 栄一『群生海』

 冒頭の詩は、念仏者であり詩人でもあられた榎本栄一さん(1903~1998)の詩集『群生海』の中の「あるく」という詩です。

 榎本さんは難しい仏教用語を使うことなく、日々の暮らしの中で感じられた阿弥陀様のお慈悲の数々を、たくさんの詩にして残されました。それらの詩は今を生きる私たちに、阿弥陀様と歩む力強さと喜びを伝えてくれます。

 榎本さんは、少年時代に生まれ故郷の淡路島を後にして大阪へ出て来て丁稚奉公をされます。父親との死別という大きな悲しみを経験され、さらに大阪大空襲では焼夷弾の雨が街を焼き尽くし、榎本さんも焼け出されて、それまで築き上げてきたものすべてを失うこととなります。

 以降も苦難の道を歩まれましたが、乗り越えることができたのは、若い時に聞いた浄土真宗の教えのおかげであったとあります。どんなに辛い状況の中でも、榎本さんは決して独りではありませんでした。常に阿弥陀様に見守られ、お慈悲の光に照らされていました。だからこそどんなに、苦難な状況の中でも、くじけずに歩むことができたのでしょう。

 皆さんは、この一年をどのように過ごされたでしょうか。人それぞれに喜びの出来事もあれば悲しみや苦しみを味わった出来事もあったことと思います。時には誰にもわかってもらえない孤独を感じることもあったかもしれません。

 来る新しい年も、きっとさまざまな出来事が待ち受けていることでしょう。しかしながら、どんな状況の中でも私たちは決して独りではありません。阿弥陀さまは私が嬉しい時、悲しい時、苦しい時、辛い時も変わることなく、私たちを見守り、お慈悲の心で優しく照らしてくださいます。ゆえに、私たちはゆっくりでも、安心して歩みを進めることができるのです。

 新しい年も阿弥陀さまと共に、歩ませていただきましょう。

本願寺派布教使 野田茜

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