月々のことば(法話)

2025年2月

『上の雪 さむかろな。 つめたい月がさしていて。』

出典:金子みすゞ『金子みすゞ全集』

 雪の降る季節です。今月の言葉は詩人、金子みすゞさんの「積もった雪」という詩の一節からいただきました。

「積もった雪」

上の雪 さむかろな。 つめたい月がさしていて。

下の雪 重かろな。 何百人ものせていて。

中の雪 さみしかろな。 空も地面もみえないで。

出典:金子みすゞ『金子みすゞ全集』

 私の生まれは広島県で、あまり雪の降らない地域だったのもあり「上の雪・下の雪・中の雪」という言葉をあまり想像できていませんでした。しかし、昨年の2月に北海道の旭川に行く機会があり、その時に見た積雪にびっくりしました。

 気温がほぼ常に氷点下なので、一度降った雪がほとんど溶けず、その上にまた次の雪が降って幾重にも積み重なり、断面がはっきりと地層のように見える。そんな光景を初めて目にしたのです。そこには確かに、サラサラで月明かりに照らされるような上の雪と、少しずつ溶けながら何百人にも踏み固められ、氷のようになった下の雪とがありました。その時に、みすゞさんが見られたのも、もしかしたらこのような景色だったのかもしれないと感じたことでした。

 ところが、私が雪に感動したのは一時の事で、それ以降はずっと「凍った雪で滑って転ばないか」とか「この雪で電車が遅れないだろうか」とすぐに自分の都合ばかりで雪を見ていました。そこにはすでに「上の雪・下の雪」という感覚はないどころか、「中の雪」という存在すら気づいてもいません。

 しかし、みすゞさんは見えないもの、気づかないものに光をあて、そこに「いのち」を吹き込み、「さむかろな」、「重かろな」、「さみしかろな」とうたいます。このようなまなざしは、きっと阿弥陀さまのまなざしを聞かせていだく中に手に入れられたものなのでしょう。

十方微塵世界(じっぽうみじんせかい)の 念仏(ねんぶつ)衆生(しゅじょう)をみそなはし

摂取してすてざれば 阿弥陀となづけたてまつる

出典:親鸞聖人『浄土和讃』

 「微塵(みじん)」と示される、誰にも見られない雪の一粒のような小さな存在である私の苦しみ悲しみを、しっかりと見抜いて寄り添い、お念仏申す身に育ててくださる阿弥陀さまの眼差しを、金子みすゞさんの詩に感じた事であります。

布教研究専従職員 三ヶ本義唯

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