月々のことば(法話)

2025年8月

正義はある日突然逆転する

やなせたかし

 NHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」が放送されています。『アンパンマン』を生み出したやなせさん夫婦をモデルに、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでが描かれます。

『アンパンマン』はやなせさん自身の戦争体験が基になって生まれたといわれます。やなせさんは自身の経験を通して、弟さんの戦死のこと、飢えることがどんなに辛いことだったかを多くの本に書き残されます。

 戦争が終わり、世の中の価値観がガラリと変わります。戦中は「正義の戦い」と言っていましたが、戦後は手の平を返したように、「正義の戦い」など存在しない、戦争そのものが悪なのだ…。ならば弟の死はなんだったのか。あのひもじい思いをしながら乗り越えた日々は何だったのか。すべてが無駄なことだったのではないか。

「正義」は、立場によって簡単に変わってしまうことを実感するのです。その中でやなせさんは一体何が本当の正義なのかを考えます。その答えが「どんな時代であってもお腹を空かせている人に食べ物を与えることが出来るのならばそれは本当の正義だ」という答えにたどり着きます。

 そして生まれたヒーローが、お腹が空いたり困っている人がいたら、いつでもどこでも飛んでいく『アンパンマン』です。

 親鸞聖人は阿弥陀如来の救いが説かれる『仏説無量寿経』を「真実の教え」と示されました。真実とは「不顛倒(ふてんどう)不虚偽(ふこぎ)」。不顛倒とは、決してひっくり返りません、という意味で、不虚偽は、嘘、偽りが混じりません、ということです。つまりはどのような時代であっても阿弥陀さまの救いは真実であり、ひっくり返ることはありません。どの場所であったとしても文化、道徳に影響されることがないのが阿弥陀さまの救いであり、それを「真実の教え」だと示されるのです。人間が築きあげたものはその時の都合、立場によっていとも簡単にひっくり返ってしまいます。

 阿弥陀如来は「あなたをお浄土に生まれさせ、うるわしき仏とするよ」と南無阿弥陀仏のお念仏となってご一緒くださります。この私の人生が人間の色々な価値判断の中で、ある時は正義であり、ある時は逆の立場に立つことがあったとしても、命終わってお浄土に生まれ、困っている方々を自由自在に救える仏となっていける。何もかもがひっくりかえっていきかねない世界に生きる私に、決してひっくり返らない、変わらぬ真実の教え。南無阿弥陀仏のお救いが今私の所に届けられている。それが浄土真宗です。

浄土真宗本願寺派布教使 津守 秀憲

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